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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)14182号 判決 1971年8月27日

原告

岩井正治

外七名

代理人

佐藤義弥

駿河哲男

被告

右代表

前尾繁三郎

右指定代理人

朝山崇

外五名

主文

一  被告は原告岩井正治、同岩井ハルノに対し、それぞれ金六三五万八八六〇円およびこれに対する昭和四一年八月二六日から完済まで年五分の割合よる金員の支払をせよ。

二  被告は原告伊藤ヨ子に対し、それぞれ金二〇四万三五〇〇円およびこれに対する昭和四二年六月二三日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。

三  原告伊藤藤吉、同伊藤ヨ子のその余の請求を棄却する。

四  被告は原告遠藤トシ子に対し金二三七万一九〇〇円、原告遠藤博、同遠藤克己、同遠藤勉に対しそれぞれ金一七四万七九〇〇円および右各金員に対する昭和四一年一〇月一日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。

五  訴訟費用は、原告伊藤藤吉、同伊藤ヨ子と被告との間においては右原告らに生じた費用の二分の一を被告の、その余を各自の負担とし、その余の原告らと被告との間においては全部被告の負担とする。

六  この判決は主文第一、二、四項に限り仮に執行することができる。ただし、被告において原告岩井正治、同岩井ハルノに対してはそれぞれ金二〇〇万円、原告伊藤藤吉、同伊藤ヨ子に対してはそれぞれ金八〇万円、原告遠藤トシ子に対しては金八〇万円、原告遠藤克巳、同遠藤勉に対してはそれぞれ金六〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実《省略》

理由

第一原告岩井正治、同岩井ハルノの請求(貯木場事件)について

一<証拠>によると、次の事実を認めることができる。すなわち、

(一)  昭和四一年八月二六日午前九時頃北海道常呂郡置戸町字置戸所在の置戸営林署置戸貯木場第三号土場において、同営林署に勤務する村田弘が運転する同営林署所属のフオークローダーが、トラックで運搬されてきた木材を椪積(はいずみ)して、後退したところ、後輪が土場の軟弱な個所にはまりこみ動けなくなつてしまつた。そこで、運転手の村田および同人とチームを組んで仕事をしていた山本君雄他二名の作業員は、フォークローダーを自力で脱出させようと図り、右山本がフオークローダーの前輪と後輪の間をスコップで掘りおこし始めた。そこへ、山から木材を運搬してきた菅清運転のトラックが三号土場へ入つて来たので、村田らは自力脱出を試みることをやめて、トラックに牽引してもらうこととした。

(二)  その頃岩井賢治は、右フオークローダーのはまりこんだ場所の付近で検収作業をしていたが、トラックで牽引することとなつたのでフオークローダーから約一五メートル位離れた地点に退避して右牽引作業を見ていた。

(三)  トラックによる牽引作業は、トラックのフックとフオークローダーのフックとにワイヤーロープを少したるませた状態にかけ、急激に牽引していわばフオークローダーに衝撃を与える方法で脱出させようとした。ところが、トラックが発進してフックに力がかかつた途端、フオークローダーのフックを取り付けてあつたボールトがちぎれ、右フックがワイヤーロープの張力により飛び、前記のように傍に退避していた岩井賢治の腹部に激突した。そのため同人は胃、肝臓破裂の傷害を受け、同日午後三時一七分死亡するに至つた。

以上の事実(右事実中、請求原因第二項、同三項(二)に記載する事実は当事者間に争いがない。)を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

さらに、<証拠>によれば、置戸貯木場においてフオークローダーを使用するようになつてから、雨の降つた後などはフオークローダーが軟弱な個所にはまりこみ運行不能となることが多く、そのような場合フオークローダーのアームを利用し丸太を車輪の下に敷いたりして自力で脱出する方法と木材を運搬してくるトラックによつて牽引する方法とが採られていたが、トラックがすぐ利用できるときにはトラックによる牽引の方が普通になつていたこと、フオークローダーには牽引に利用されるフックがボールト二本で取り付けられていたが、村田の運転していた前記フオークローダーのフックは、本件事故前にも牽引に使われたときボールトが破損してはずれたことがあることを認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、置戸貯木場においてフオークローダーを使用するについては、一般に車輪が軟弱な個所にはまりこみ運行不能となることが予想され、これをトラックにより牽引して脱出させることが予定されていたものということができる。したがつて、右牽引に使用するフオークローダーのフックは、これに十分耐えられるように車体に取り付けられていなければならないというべきところ、本件フオークローダーのフックは、本件事故前にも牽引に耐えられずにはずれたことがあり、本件事故のときも前記のような経過でボールトがちぎれて飛んだものであるから、その取付には特段の事情のない限り瑕疵があつたものと認めることができる。

二そこで、右特段の事情の有無を検討するに、被告は本件フックを取り付けてあつたボールトは計算上トラックによる牽引に十分耐えられるもので、本件においてこれがちぎれたのは牽引の方法が悪かつたためである旨主張するので、この点について判断する。<証拠>によれば、置戸貯木場においてはフオークローダーをトラックにより牽引する場合の方法について、特別な指導はされていなかつたことが認められる。<証拠判断・略>右事実と前記本件フックが飛ぶに至つた牽引の経過および方法とを考え併せると、本件事故発生のときの牽引方法が通常考えられない極端な方法であつたものということはできず、フックが飛んだのは専ら牽引の方法が悪かつたためであると考えるわけにはいかないのである。要するに、前記のように多少衝撃を与える牽引方法をとつたとしても、本件フックはこれに耐えられるように取り付けてあるべきであつたといわざるを得ず、これにより瑕疵の存在を否定することはできない。現に<証拠>によれば、本件事故後フックの取付を溶接により強化する方法がとられていることが認められるのであるから、本件事故当時においても右方法等を採用してフックの取付を強固なものにすることが可能であつたはずである。(なお仮に衝撃を与える牽引方法に耐えられるようにフックを取り付けることが工学上不可能とすれば、そのような牽引方法を採らないよう十分指導を徹底すると同時に、フックが飛ばないような防止装置を取り付けるべきである。)

そして、本件全証拠によるも他にフック取付についての瑕疵の存在を否定するに足りる特段の事情は認めることができない。

三以上によれば、公の営造物であるフオークローダーのフックの取付に瑕疵があつたものであり、これがために前記死亡事故が発生したものであるから、責任原因についてのその余の点を判断するまでもなく被告は前記死亡事故による原告らの損害を賠償すべき責任を免れない。

四そこで、原告らの損害について判断する。

(一)  得べかりし利益

岩井賢治が二一才で慶応大学一年生に在学中に死亡したことは当事者間に争いがなく、右事実によれば同人が大学卒業後四一年間就労可能であつたものと認められる。そして、<証拠>によれば、昭和四二年四月現在企業規模一〇人以上の産業における新制大学卒業の男子労働者の平約月間定期給与額が五万二二〇〇円、平均年間特別給与額が二〇万〇四〇〇円であることが認められ、右事実によれば岩井賢治も右就労可能期間中少なくとも右同額の収入が得られたものと認められる。さらに、一ケ月の生計費が一万二六〇〇円程度であることは当裁判所に顕著であるから、同人の一年間の得べかりし利益は六七万五六〇〇円となる。そこで、右額に基づき同人が就労可能であつた四一年間の得べかりし利益の事故当時における総額を、ホフマン式計算法により中間利息を控除して算出すると、一三二八万六六一九円となる(年収額六七万五六〇〇円に四五年間の係数23.2307と四年間の係数3.5643との差19.6664を乗じ、円未満を切捨てる。)。

そして、請求原因第一項の相続関係については当事者間に争いがないので、原告らは右損害賠償請求権を各自六六四万三三〇九円宛相続したものである。

(二)  慰藉料

<証拠>によれば、原告らは五人の子のうち賢治一人を大学に進学させその将来に期待をかけていたもので、同人の死亡により多大の精神的苦痛を蒙つたことが認められ、右精神的苦痛を慰藉するためには、原告らそれぞれに一五〇万円が相当である。なお、原告らは岩井賢治の慰藉料請求権を相続した旨主張するが、死者本人が自身の死亡による慰藉料をその生前に取得してそれが相続の対象になるということは論理上納得し難いものを含むのみならず、そのような迂路を経ずとも、一定の近親者には直接民法第七一一条による慰藉料を得せしめるのが現行法の建前であると解されるから、原告らの主張する相続を認めるべきでない。(なお、原告らは慰藉料の増額を予備的に主張しているのであるが、右は、逸失利益認定額がその主張額に満たない場合を想定するものであるところ、本件ではその主張を越えた逸失利益額が認定されたのであるから、右の点を判断する必要はない。)。

五以上によれば、原告らは各自八一四万三三〇九円の損害賠償請求権を有するところ、被告から各自三二万二〇〇〇円の弁済を受けたことは当事者間に争いがないからこれを控除すると各自七八二万一三〇九円となる。よつて、原告らが各自六三五万八八六〇円およびこれに対する本件事故の日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるのは理由がある。

第二原告伊藤藤吉、同伊藤ヨ子の請求(刈払機事件)について

一<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。すなわち、

(一)  伊藤幸次は、北海道斜里郡小清水町水上国有林内の小清水営林署に定期従業員として雇傭されていたが、昭和四二年六月二三日午前七時三〇分項前日までやつていた刈払作業を続けるため、同営林署水上造林事務所の集合場所に他の従業員らとともに集合した。当日は伊藤の所属する作業班の班長、副班長ともに不在であつたため、同班の作業員は集合後何の指示もないまま各人の意思で作業の場所を選択し、携帯用の石油缶に刈払機の燃料をつめてそれぞれの場所に向かつた。伊藤は、津田、高野、斉藤らとともに、前日刈払作業を終えて刈払機を置いておいた山の頂上付近へ向かつて、頂上の少し平担になつたところで刈払機の整備点検を始めた。そして、準備の完了した者から刈払作業にかかり、田中、津田、斉藤、高野の順に山の尾根に平行におよそ等高線沿いに各人が二メートル弱の刈幅で、笹および雑草の刈払作業を開始した。伊藤は、右高野が作業を開始する頃には刈払機の点検を完了し、刈払機を持つて頂上付近から少し下へ降りてきた。

(二)  一方、水上造林事務所の主任であつた佐々木は、同日作業状況をみるため作業員の集合場所に赴いたが、同所に到着したときにはすでに作業員が作業場所へ向かい出発していたので、山の麓付近で作業員の機械の整備点検作業等を見廻りながら、山の上に登つた作業員の状況を見たところ、作業の開始が若干遅れているように思つた。そこで、麓付近で刈払作業をしていた成田良保に山の上の様子を見てくるように命じ、自らも右成田とは別に山を登り頂上近くまで達したところ、前記のように頂上付近から降りてきた伊藤に出会つたので、同人に対し早く作業を始めるよう注意を与えた。

(三)  その後まもなく、刈払作業をしていた前記高野の刈払機が故障したので、同人が刈払していた場所を伊藤が代わつて作業することになり、同人は、三枚刃を装置した刈払機を使用してしばらくの間刈払をして進んでいつた。ところが、同日午前八時五〇分頃イチイの木の伐根に三枚刃が接触して右伐根の頭部を少し削り取つたが、そのとき三枚刃のうち二枚の刃が割れて飛び、刃のついた破片の一部が伊藤の右腹部にささり、同人は右大腿動脈および静脈を切断し、出血多量のため同日午前一時一〇分死亡するに至つた。

以上の事実(右事実中請求原因=第二項に記載する事実は、イチイの伐根が笹におおわれていたとの点を除き、当事者間に争いがない。)が認められる。<証拠判断・略>

ところで、<証拠>によれば、刈払機に使用する刃には丸鋸と三枚刃とがあるが、丸鋸に比較して、三枚刃を使用した場合には刃の回転により浮力を生じるため重量が軽くなり、機械が扱い易く作業の行程がはかどること、しかしながら、障害物に衝突した場合三枚刃の方が衝撃が大きいため、三枚刃は柔かい笹や雑草を刈払う場合に適するとされ、使用にあたつてはそのことに留意するように指導されていたこと、刈払作業をする場所は伐根のある箇所が多く、作業中に笹等におおわれた伐根に接触することもままあるが、柔かい笹等の生育地であれば伐根のある所でも三枚刃が使用されていたこと、三枚刃使用に適するとされる場所でも、丸鋸を使用するか三枚刃を使用するかは、各従業員の選択にまかされていたこと、丸鋸あるいは三枚刃のいずれを装着しても、刈払機自体障害物に衝突したときには自動的に刃の回転が停止する構造になつていたこと、以上の事実(右事実中請求原因Ⅱ第三項(二)記載の事実は当事者間に争いがない。)を認めることができる。さらに、<証拠>によれば、本件事故の起つた刈払作業地は、事故当時柔かい笹や雑草の生育地で三枚刃の使用に適するとされていた場所であることが、<証拠>によれば、右作業地は各種の伐根が点在していることが、それぞれ認められる。また、北見営林管内において、本件事故後は刈払作業に際しての三枚刃の使用を中止し、丸鋸だけを使用していることは当事者間に争いがなく、右によれば三枚刃は業務遂行上不可欠であるという程の必要性あるものとは必らずしも認められない。

右事実によれば、笹等におおわれた伐根等の障害物が存在する場所で刈払作業をする場合には、刈払機の刃が右障害物に衝突することが十分に予想されるところであり、しかも三枚刃を装着した場合には丸鋸の場合より衝撃が大きく、したがつて危険も大きいものと考えられるうえに、三枚刃使用の必要性はそれ程大きくないのであるから、右のような場所で三枚刃を使用するについては、衝突に対する安全を十分に確保しなければならないものということができる。すなわち、三枚刃を装着した刈払機を右のような場所で使用させる限り、刈払機には衝突しても安全なだけの性能を備えなければならないのである。しかるに本件においては、前記のように衝突した場合には自動的に刃の回転が停止する構造になつていたにもかかわらず、刈払作業中に伐根に衝突して三枚刃が割れて飛び散つたのであるから、他に特段の事情が認められない限り、少なくとも伊藤の使用した三枚刃装着の刈払機には瑕疵があつたものといわざるを得ない。

二そこで、本件において右刈払機に瑕疵があつたことを否定するに足りる特段の事情があるか否かを考えてみるに、被告は本件事故が伊藤幸次の故意または少くとも過失により発生したもので、瑕疵によるものでない旨主張するので、この点について判断する。

<証拠>によれば、斎藤に続いて高野が刈払作業を始めたとき、両者の間隔はおおよそ一〇メートル位であり、その後高野の機械が故障して伊藤が交替したときには、同人と斎藤との距離は一〇メートル以上あつたこと、ところが、刈払作業においては作業員同士の間隔を八メートル位とるべきであるのに、伊藤が本件事故を起こす直前には斎藤との距離が三メートル位に接近し、斎藤が危険を感じ追いついてこないよう注意を与えていたことを認めることができる。右事実と前認定の伊藤が作業開始前に佐々木主任から注意を受けていた事実とを併せ考えると、伊藤は通常の速さを超すかなり速い速度で刈払作業をしていたことが認められる。次に、<証拠>によれば、本件三枚刃の接触したイチイの伐根の上から付近の山側にかけて、中刈(笹の根元を刈払う前に上部の葉を刈払う方法)がなされていたと、したがつて右イチイの伐根を発見するのにそれ程困難な状態ではなかつたことを認めることができ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。また、<証拠>によれば、刈払作業に三枚刃を使用するようになつてから、三枚刃が作業中に割れるという事故は本件以外にはなかつたことが認められる。そして、<証拠>によれば、前記イチイの伐根は、上部切口の端の一部がほんのわずかの厚さで削り取られていることが認められ、右事実と証人松田の証言によれば、本件事故発生の時には、三枚刃が相当の高速回転をしながら衝突したものと認められる。しかしながら、本件事故よりも前に伊藤が刈払機を故意に木に衝突させたことがある旨の被告の主張事実は、<証拠>中にはこれに副う部分があるが信用し難く、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

以上を総合して考えてみると、伊藤幸次は、通常よりかなり速い速度で、その意味では乱暴ともいえる方法で刈払していたものとはいえ、伐根の存在を認識しながらあえて刈払機をこれに接触させたものとは認め難いといわざるを得ない。しかし、右のような刈払方法を採れば、伐根に衝突する危険が大きいことは当然に予想されるところであり、また本件イチイの伐根を発見することはそれ程困難な状態でなかつたことは前認定のとおりであるから、伊藤としては伐根に衝突することを予想して刈払方法、伐根の存在等に十分な注意を払うべきであつたのであり、そうすることにより本件事故の発生は避けられたはずである。したがつて、本件事故については、伊藤幸次に相当な過失があつたものということができる。

しかしながら、伊藤幸治に右のような過失があるからといつて、本件においてはなお前記本件刈払機の瑕疵の存在を否定することはできないというべきであり、他に右瑕疵の存在を否定すべき特段の事情を認めるに足りる証拠はないのである。

三以上によれば、公の営造物である本件刈払機の瑕疵のため、前記死亡事故が発生したものというべきであるから、被告はよつて生じた損害の賠償義務を免れないが、その損害額の算定につき伊藤の右過失を斟酌すべきことはいうまでもない。

そして、右瑕疵の存在と伊藤の右過失との本件事故に対する寄与の割合を考えるに、前者の四に対し、後者の六をもつて相当とする。

四そこで進んで、原告らの損害について判断する。

(一)  得べかりし利益

伊藤幸次が二四才で死亡したことは当事者間に争いがなく、右事実によれば同人が事故後三九年間は就労可能であつたものと認められる。そして、同人が定期従業員で昭和四二年一一月三〇日には雇傭が終了する予定であつたことも当事者間に争いがないところ、<証拠>によれば、昭和四二年四年現在企業規模一〇人以上の産業における中学卒業の男子労働者の平均月間定期給与額が四万一五〇〇円、平均年間特別給与額が九万五五〇〇円であることが認められる。右事実によれば、伊藤幸次も右就労可能期間中少なくとも右同額の収入を得られたものと認められる。そして、前記のとおり一ケ月の生計費が一万二六〇〇円程度であることは当裁判所に顕著であるから、同人の一年間の得べかりし利益は四四万二三〇〇円となる。そこで、同人が就労可能であつた三九年間の得べかりし利益の事故当時における総額を、ホフマン式計算法により中間利息を控除して算出すると、九四二万五〇五九円となる(年収額四四万二三〇〇円に係数21.3092を乗じ、円未満を切捨てる。)。そこで、前記伊藤幸次の過失を斟酌し、そのうち被告が賠償すべき額を三八〇万円と定めるのを相当と考える。

そして、請求原因Ⅱ第一項の相続関係については当事者間に争いがないから、原告らは右損害賠償請求権を各自一九〇万円宛相続したものである。

(二)  慰藉料

<証拠>によれば、原告らが伊藤幸次の死亡により大きな精神的苦しみを味わつたことが認められる。そこで、前記過失割合その他の諸般の事情を考慮し、原告らの右精神的苦痛を慰藉するため被告が賠償すべき額を考えるに、原告ら各自に対し六〇万円をもつて相当と考える。(伊藤幸次の慰藉料請求権を相続したとの点は、前第一の四(二)で判示したとおり認めるべきでない。慰藉料増額の予備的主張についても、同様である。)

四以上によれば、原告らは各自二五〇万円の損害賠償請求権を有するところ、被告から各自四五万六五〇〇円の弁済を受けたことは当事者間に争いがないからこれを控除すると各自二〇四万三五〇〇円となる。よつて、原告らの請求は、右金員およびこれに対する本件事故の日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

第三原告遠藤トシ子、同遠藤博、同遠藤克巳、同遠藤勉の請求(集材機事件)について

一<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。すなわち、

遠藤与一は、北海道北見営林局留辺蘂営林署の定期従業員として、昭和四一年一〇月一日北海道常呂郡留辺蘂町字滝の湯において同僚の佐藤、西島、宗片とともに集材装置の組立作業をすることとなり、同日午前七時三〇分頃作業を開始した。当日は前日までに組立てられていた集材装置について、集材機の交換、緩んだスカイラインの張り上げ等の作業を行なうことになつていたが、遠藤らは午前中に張つてあつたスカイラインをおこし集材機の交換を終えて午後に入りスカイラインを張り上げる作業にかかつた。まず西島が集材機を運転してヒールラインを集材機のドラムに巻き込み、スカイラインが張り上つたところで集材機のドラムにブレーキをかけ、次いで佐藤と宗片がアンカーライン二本とヒールライン一本をまとめて、いわゆる三本締めという方法でクリップを使い、四ケ所を結索して仮止めした。そして、佐藤と宗片はクリップ止めをした所から退避して、佐藤が西島に対し集材機のブレーキをゆるめるよう合図し、西島が右ブレーキをゆるめて仮止めの具合を調べたところ、ヒールラインは滑り出さず完全に仮止めされているように見えた。

そこで、続いて本止め作業にかかることになり、遠藤が集材機のドラムからヒールラインを引き出す作業を行なつているとき、同日午後一時三〇分頃突然クリップで仮止めしてあつたヒールラインが、張り上げたスカイラインの重さで滑り出して急激に緊張し、その勢いで跳ね上がつて遠藤の胸腹部を強打し、そのため同人は同日午後二時二〇分胸腹部内出血により死亡するに至つた。

以上の事実(右事実中請求原因第二項記載の事実は当事者間に争いがない。)を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

そして、<証拠>によれば、クリップ止めは、クリップに左右二個ついているナットを均等に十分締めつけて行なうことになつているが、実験の結果をみると本件仮止めのときと同じワイヤーロープを使つて三本締めをした場合、十分ナットを締めつけるとネジ山がナットから四個ないし五個出るものと考えられるところ、本件仮止めにおいては四個のクリップについている合計八個のナットの大部分が締めつけが不十分で、ネジ山が二個半位出るにすぎない程度であり、しかも左右のナットが均等に締められていなかつたこと、ナットの締めつけについては、作業員に対しワイヤーロープが変形しない程度に二個のナットを均等に十分締めるように指導されていたこと、また仮止めをする場合、直接にはワイヤーロープを保護するという観点から、ヒールラインを固定するためのヒールラインスタンプ(通常伐根ないし立木の根際を利用する。)から、その直径の1.5倍以上離れた所でクリップ止めするように指導されていたが、本件においては1.14倍位の所でクリップ止めがなされていたこと、以上の事実を認めることができ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

二ところで、労働安全衛生規則(昭和二二年労働省令九号)第一七〇条の二九によれば、集材装置の組立作業においては、架線技師の資格を持つた作業主任者が直接に作業の方法および労働者の位置を決定し、作業を指揮しなければならない旨が定められているが、当事者間に争いのない組立作業の方法および本件事故が発生したことから考えると、集材装置の組立作業には、スカイラインの張り上げ等の危険性の高い作業が含まれているのであるから、作業主任者は、組立作業中は常に自ら現場において作業員を直接に指揮、監督し、作業の安全を確認すべき立場にあるというべきであり、右規則もこのような趣旨を定めたものと解することができる。しかるに本件においては、<証人佐藤、同宗片、同福田、同水橋、同西島、同高橋の各証言>によれば、前記滝の湯の事業所には架線技師の資格を有する者が水橋しかなかつたこともあつて、同事業所における集材装置の組立解体作業では右水橋が作業主任者とされていたが、同人は事業所主任をも兼任していたためその方の仕事も忙しく、右組立解体作業につき作業主任者として実際に現場において初めから終わりまで直接指揮、監督することは少なく、ときどき巡視に行く程度で各作業員にまかせてしまうことが多かつたこと、本件事故の起きた日も午前中は事業所主任の仕事に従事し、午後になつてスカイラインの張り上げ作業が開始されてから初めて作業現場に赴いたこと、そして、現場に到着後も作業員に対して何らの指示も与えずに、同日午前九時三〇分頃から作業現場で作業の様子を見ていた稲田指導員と仕事の打合せをしていたが、そのうちに本件事故が発生したこと、また集材装置の組立解体作業は一年のうち多くても一〇回程度行なわれるだけで、右水橋が事務所主任を兼任して忙がしいとはいつても、作業主任者として右作業を直接指揮、監督することも、時間的に不可能ではなかつたと考えられること、ちなみに、本件事故後においては、集材装置の組立解体作業主任者が任命され、その直接指揮、監督のもとに作業が行なわれるようになつたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

三以上説示した認定事実によると、本件事故は、直接には仮止め作業をした佐藤および宗片がクリップのナットを十分に締めつけていなかつたのに、軽々に仮止めが完全であると信じて作業を進めたため発生したものであり、同人らの過失によるものと認めることができる。しかしながら、作業主任者であつた水橋が、前説示のように作業を直接指揮、監督し、安全を確認すべき立場にあることを認識し、これを十分に果し、作業員に適切な指示を与えていれば本件事故の発生を未然に防止し得たものと考えられるところ同人は前記のようにこれを怠つたものであるから、同人にも本件事故の発生について過失があつたものといわなければならない。

そうすると、その余の点を判断するまでもなく、被告は原告らに生じた損害を賠償する責任を負うものである。

四  そこで、原告らの損害について判断する。

(一)  得べかりし利益

遠藤与一が四五歳で死亡したことは当事者間に争いがなく、右事実によれば同人が本件事故後一七年間就労可能であつたものと認められる。そして、同人が定期従業員で昭和四一年一二月二〇日に雇傭が終了する予定であつたことも当事者間に争いがないところ、前記のように昭和四二年四月現在の企業規模一〇人以上の産業における中学卒業の男子労働者の平均月間定期給与額が四万一五〇〇円、平均年間特別給与額が九万五五〇〇円であることが認められるから、右遠藤も右就労可能期間中少なくとも右同額の収入を得られたものと認められる。さらに前記のとおり生計費が一ケ月一万二六〇〇円程度であることは当裁判所に顕著であるから、同人の得べかりし利益は一年間で四四万二三〇〇円となる。

そこで、同人の就労可能期間中の得べかりし利益の事故当時における総額をホフマン式計算法により計算すると、五三四万一六一二円となる(年収額四四万二三〇〇円に係数12.0769を乗じ、円未満を切捨てる。)。

そして、請求原因第一項の相続関係については当事者間に争いがないから、原告遠藤トシ子は右損害賠償請求権のうち一七八万〇五三七円を、その余の原告らは各一一八万七〇二四円を各相続したものである。

(二)  慰藉料

<証拠>によれば、原告らが一家の柱ともいうべき遠藤与一の死亡により、測り知れない程の精神的苦痛を蒙つたことが認められ、これを慰藉するためには、原告遠藤トシ子に対し二〇〇万円、その余の原告らについて各七〇万円が相当であると思料する。(なお、遠藤与一の慰藉料請求権の相続は前第一の四(二)判示のとおり認めるべきではない。慰藉料の予備的主張に関しても同様である。<略>)

五以上によれば、原告遠藤トシ子は三七八万〇五三七円、その余の原告らは各自一八八万七〇二四円および右各金員に対する本件事故の日である昭和四一年一〇月一日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求められるものであり、原告らの請求はすべて理由がある。

第四結論

以上により、原告岩井正治、同岩井ハルノ、同遠藤トシ子、同遠藤克己、同遠藤勉の請求をすべて認容し、原告伊藤藤吉、同伊藤ヨ子の請求を理由のある限度で認容しその余を棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言およびその免脱の宣言について同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(倉田卓次 奥平守男 相良朋紀)

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